キーマンインタビュー
- ビジネス記事
- キーマンインタビュー
睛姿(上海)企業管理有限公司
董事・総経理 中国代表/日本法人 常務執行役員 宇部 真記 氏
高品質の眼鏡とサービスで
中国No.1ブランドを目指す
「メガネを通して、美しく豊かな人生を」という理念を提唱しているJINS。中国代表として2010年の進出以来一貫して中国事業を率い、10年間で160店舗展開を果たすほどの成長を牽引してきた宇部氏に、これまでの経緯と今後について伺った。
アイウエアブランドJINSの直営店を中国で160店舗、香港で6店舗展開し、安心安全を軸に、399元で購入できる最高品質の眼鏡とサービスを提供しています。今となっては当社と同じような価格帯で販売している店舗はいくつもありますが、全世界で約550店舗を展開しているスケールメリットを活かし、399元で購入できる眼鏡としては世界で最高レベルのものをお届けできていると自負しています。
2010年、ヤマダ電機さんが中国進出をした際にお声掛け頂き、1号店を瀋陽に出店しました。当初は採算が合わず苦戦していましたが、その後2号店を天津の好立地に出店できたことで軌道に乗りました。上海へは2012年に進出し、当初は伊勢丹や人民広場のラッフルズシティなどの中心エリアで販売を注力して売上も順調に伸びていきましたが、現在では商圏が郊外へと移転していっています。浦東の世博園や五角場などが上海における稼ぎ頭となっているエリアです。眼鏡という同じものを売っていても、立地一つで売上に圧倒的な差がつくことがあります。もちろん人通りが多いに越したことはないですが、購買意欲を持った方がどれだけいるかという点が重要です。その点、車で買い物に訪れる方が多い郊外の商業施設は非常に有望で、立地選定の際には特に意識をしています。
展開していく中で、中国特有とも言える困難にも数多く直面してきました。契約をして内装を済ませた後に、耐震やら水道やら動線の問題やらで営業許可が下りず、資金もほとんど回収できないまま泣き寝入りするしかないというケースも何度か経験してきました。天井上の配管が破裂して売り場が1メートル水浸しになったこともありましたし、厄介だったのが市場監督局などからの指摘や罰金です。突然抜き打ちでやって来ては、重箱の隅をつつくようにして粗探しをされました。当初は折り合いをつけていたのですが、きりがないため、ある時に政府に繋がりを持った人に交渉して頂き、それ以降は同様のケースがほとんど無くなりました。
最重要な中国市場での奮闘の日々
2016年に、何もないところから総経理(中国人)と私の2名で当社を立ち上げました。事務所探しや倉庫探し、スタッフの採用、事務所拡張に伴う移転、ショールーム開設に至るまで、多くのことを経験してきました。まさにあっという間の4年間で、日本で働くサラリーマンが20年間かけて経験するようなことを、わずか4年間で体験してきたような思いです。何といっても中国のスピード感には驚かされます。仕事以外のことにおいても、モバイル決済に代表されるライフスタイルを含め、あらゆる面においてとにかく変化が早いと感じます。発展も早いですが衰退も早いですから、失敗すれば瞬く間に消え去ってしまいます。可能性が無限に広がっているのは確かですが、失敗に対するリスク管理も重要です。
中国進出当初は日系企業がお客様の中心でしたが、成長を図るべくローカル中国企業に対する営業強化へと軸足を移しています。ディベロッパーやホテル、設計事務所、内装施工会社などが主なお客様です。中国企業との付き合いの中では、商習慣の違いから、売掛金回収の難しさ、ローカル企業との競合などに加え、もちろん言葉の問題もあります。コミュニケーションがうまくいかず、もどかしさを感じることがある一方で、ともに食事をして盃を交わし、中国語で会話をすると深い関係性を築くことができるという文化は、日本とは異なってフレンドリーさを感じます。
中国のマンションなどの住宅は、かつては内装未施工のスケルトン渡しが一般的でした。そのため、同じマンションであっても1戸ずつ玄関ドアが異なっていたり、内装もバラバラというのが当たり前でした。ですが、最近はディベロッパーが内装工事まで仕上げる物件が主流となりつつあり、当社の強みであるトータルでのコーディネートを展開しやすい環境になってきていると言えます。また、販売拠点が無い未開拓地域の攻略も重要です。Goodrich Global社が1級都市をメインにいくつか拠点を抱えていますが、内陸部や東北部など未だに手付かずの地域がたくさんありますので、販売拠点や代理店を増やしていかなくてはなりません。
海外事業の中でも中国は最も重要なマーケットであり、拡販余地は無限に広がっています。とはいえ、中国におけるサンゲツの知名度は低く、ブランディングをより強化して認知度の向上に努めていかなくてはなりません。かつては、営業がこつこつとお客様のもとを訪問し、ご紹介などを通じて少しずつ認知度の拡大を図ってきたため、費用をかけての大々的な宣伝はほぼ行ってきませんでした。最近新たに始めた取組みとして、WeChatの公衆号を今月ローンチさせたほか、2018年に開設したショールームもブランディングの一環です。壁紙や床材などを扱う日系企業の中でショールームを自社で保有している企業は少ないこともあり、PRのポイントにもなっています。また、ショールームの開設と併せて、シナジー強化を図るべくGoodrich Global社とのオフィスを統合しました。当社の見込み顧客である、グローバルな案件を手がける設計事務所はシンガポールや香港に集中しています。中国とASEAN全域において、クロスボーダーに連携して販売ネットワークを強化し、収益拡大を目指しています。
接客と中国に特化した商品が鍵
中国においてここまで成長してこられた大きな要因の一つが、接客にあると考えています。眼鏡の購入にあたっては、視力測定やレンズの加工などが必要で、高いサービスレベルが求められます。上海、北京、成都の3カ所に研修センターを設け、スタッフたちに接客や眼鏡の知識などを学ばせた後に店舗でOJTを行い、その後テストを行うというサイクルを回しています。9段階のレベルがあり、各レベルに応じて時給を設定しています。アルバイトとして働き始めた人でも1年後には正社員となり、早い場合だと2年後には店長となるケースもあるなど、明確なキャリアプランを整えています。
接客に際しては、売らなくても良いとスタッフに指導しています。その代わり、JINSはどういう眼鏡屋で、どういう思いで商品を作っているかなど、JINSの紹介をしてくださいと伝えています。一つ一つの商品それぞれに、デザイナーが込めた思いや制作過程などのストーリーがあるので、お客様が気に入った商品に対してはそうした内容をお伝えするようにさせています。もちろん視力測定についても、同じ速度、同じ時間、同じ過程を経て一人一人丁寧に検査を行っていますので、フランチャイズで多店舗展開をしているような他店とは満足度が根本的に異なると思います。そのような接客の甲斐もあって、一度購入してくださった方が親御さんやお友達を連れて来てくださるというケースがお陰様で非常に多いです。
また商品についても、もちろん日本のものをそのまま販売しているわけではありません。例えば、日本ではフレームの細いシンプルな眼鏡が人気ですが、中国ではそうではありません。中国で企画して、中国のみで販売している中国人向けの商品が多数ありますが、そうした商品が現在は売上の約4割を占めています。また、中国はトレンドの移り変わりがとても早いことが特徴です。3年ほど前まではプラスチックフレームの眼鏡が売上の約75%を占めるほどの人気を誇っていましたが、ここ数年はメタルフレームの丸い眼鏡が一気に流行し、売上の半分を占めるまでに至っています。中国人の方は、その眼鏡が似合うかどうかということよりも、流行しているかどうかということにより敏感です。ハート型のサングラスが流行り始めたことを踏まえ、昨年最低ロットで生産して販売してみましたが、わずか2日で完売しました。
ナンバー1のブランドたるべく
今後の中長期目標は、中国でナンバー1の眼鏡ブランドとなることです。中国進出当初は、業界首位の宝島眼鏡が1000店舗を展開していることもあり1000店舗を目指していましたが、昨今では販売方法に変化が現れてきています。アメリカでは多店舗展開がかえって不利になる事例も発生しており、無闇に拡大を図ることはしません。取り急ぎ300店舗を目安としつつ、デジタルコマースの最大限の活用により売上比率を50%まで引き上げることを目指しています。600店舗分の売上があれば、一店舗あたりの売上は当社の方が高いので、その時点でトップになることができると見据えています。
また、日本では「JINS MEME(ジンズ・ミーム)」というメガネ型ウェアラブルデバイスの第2世代が発売されており、改良を加えた上で来年にかけて中国でも販売を開始する予定です。第1世代は重くて硬く、つけた時の不快感が大きかったのですが、第2世代の外観は普通の眼鏡と変わりありません。「脳トレ」でお馴染みの川島教授や、科学や眼科学会の第一人者の方々の叡智を結集してリリースしたもので、例えば眼鏡をかけているだけで自分の体調が分かったり、集中力が分かったり、目を使ってAPPを動かせるなどの様々な最先端の機能を備えています。世の中に役立つものとして定着できたら嬉しいですし、それを中国の方々にも一日でも早くお届けできるよう引き続き努めて参ります。
私は2012年5月から上海に赴任し、現在は開発部門とマーケティング部門を直轄しています。中国の文化レベル向上のために、日本人として出来る限りの手助けをしたいという思いで社員たちと接しています。
CSRの一環として、昨年同済大学で桜の苗を植樹しました。当時の店舗数に合わせて約140本を植えました。10年後には立派な桜になっていると思います。中国にも桜の文化が根付くことを願っています
PROFILE
プロフィール
UBE MAKI
1969年生まれ、東京都出身。専修大学商学部卒業。1993年イトキン株式会社入社。2001年JINS入社。2012年5月より上海へ赴任し、現在は日本本社の常務執行役員、中国JINSの董事・総経理、香港JINSの董事・総経理、台湾JINSの董事を兼任している。
約12年前に株式会社ストライプインターナショナルの石川社長に仰って頂いた言葉で、「どれだけ優れた組織や人材であっても、戦略が悪ければ企業は立ち行かない。その戦略を練るのが経営者の仕事である」と言われ、今でも胸に響いています。。
愛読書は警察小説
スタッフからの要請に応えて、運動会とBBQ、キャンプファイヤーを初めて開催しました。約250名のスタッフたちと行ったのですが、みんな積極的に参加してくれて始終とても楽しそうで、一人一人の性格を改めて感じることもでき非常に有意義でした。
合わせてチェックしたい!
-
ビジネス記事キーマンインタビュー
- 世達志不動産投資顧問(上海)有限公司
- 上海・北京・武漢地区統括 董事長・総経理 小金井 英生 氏 2024年12月号
-
ビジネス記事キーマンインタビュー
- 大阪国際経済振興中心上海代表処
- 首席代表(所長) 的場 正信 氏 2024年4月号
-
ビジネス記事キーマンインタビュー
- 静岡県国際経済振興会上海代表処
- 所長(首席代表) 石川 祐介 氏 2023年12月号
-
ビジネス記事キーマンインタビュー
- 山月優麗奇(蘇州)空間装飾有限公司
- 董事兼総経理 安積 正隆 氏
-
ビジネス記事キーマンインタビュー
- 在上海日本国総領事館
- 総領事・大使 赤松 秀一 氏
-
ビジネス記事キーマンインタビュー
- 日本貿易振興機構(JETRO) 上海代表処
- 主席代表/所長 水田 賢治 氏