キーマンインタビュー
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静岡県国際経済振興会上海代表処
所長(首席代表) 石川 祐介 氏 2023年12月号
日中交流のハブを目指す
「ふじのくに静岡県」
静岡県の魅力を中国の人々に伝えるため、地元企業との連携や観光プロモーションを積極的に展開する「静岡県国際経済振興会上海代表処」。来年で開設30周年を迎える県事務所の役割や、静岡県が進める「地域外交」の理念について、所長(首席代表)の石川氏に話を伺った。
アジア4事務所から静岡県の魅力を発信
1990年代に県内企業の中国への進出機運が高まったことから、1994年10月に静岡県国際経済振興会上海代表処(静岡県上海事務所)は開設されました。静岡県は、上海のほか、ソウル、台北、シンガポールに事務所があり、県内企業の現地活動や販路開拓の支援、観光インバウンドプロモーション、外資系企業の誘致・投資促進などに取り組んでいます。
私は2019年から4年間、静岡県庁で友好提携先・浙江省との交流を担当した後、今年6月から上海事務所に着任しました。中国本土・香港・マカオを対象に静岡県の経済・観光プロモーションを展開していますが、現地ならではの「気づき」が沢山あります。たとえば、北京の旅游博では「富士宮から1泊2日で富士山を登るルートは?」と日本を何度も訪れた女性から質問を受けましたが、重慶の旅游博では「富士山に登った翌日に新幹線で北海道に行くには?」と初めての日本旅行を検討する家族に尋ねられました。どちらが良い悪いではなく、中国は広く、地域ごとに日本の理解度にも差があり、アプローチを変える必要があるという「気づき」を地元関係者にフィードバックしています。
仕事柄、皆様から「静岡県といえば富士山」と声をかけていただくのですが、「新幹線から、高速道路から眺めるだけではもったいない!」とお伝えしています。たとえ一瞬見るだけでも美しい富士山ですが、半日・一日を間近で過ごせば、雲がかかり、夕日に染まり、刻々と表情を変える姿から、この山が長きにわたり信仰の対象であったことが肌感覚として理解できます。もし静岡県で富士山を楽しむのであれば、「駿河湾フェリー」がおすすめです。「県道223号(ふじさん)」と名付けられた静岡清水港と西伊豆土肥港の「海の道」を結ぶ70分のクルーズで、冬は雪化粧の富士山を海岸線から頂上まで一望できます。御朱印ならぬ「御船印」や、船内限定の「真っ青なジェラート」など、現地ならではの体験が楽しめます。
「Made by 静岡」の製品で
中国のQOL向上に貢献
静岡県には富士山はもちろん、伊豆の温泉や浜名湖など、皆様から愛されるコンテンツが沢山あります。2009年に富士山静岡空港が開港して上海路線が就航すると、コロナ禍前には煙台、杭州、寧波、南昌、西安など各地に直行便が就航しました。当時は静岡県内の外国人宿泊者数の約7割を中国の方が占めていた時期もあり、本県のインバウンドにとって、中国は最も重要なお客様です。その一方、静岡県は中国人旅行者に人気の東京~大阪のゴールデンルート上にありながらも素通りされてしまったり、富士山静岡空港を利用する団体は、着後に東京・大阪に向かうコースが一般的で、いかに静岡県を目的地としていただけるかが我々の課題です。
こうした中、弊所が注力するのが、県内企業との連携によるプロモーションです。たとえば、7月には上海髙島屋で本県の模型メーカーである「タミヤ」と「ミニ四駆大会富士山静岡カップ」を開催しました。また、9月と10月には同じく県内企業の「ヤマハ」「ヤマハ発動機」「カワイ」や、本県で製造された「KIRINウイスキー富士」など、本県ゆかりの企業と連携して、杭州市や上海市のイベントでプロモーションを行いました。静岡県は「観光県」のみならず、「ものづくり県」としても中国の皆様のクオリティ・オブ・ライフ(生活の質)の向上に寄与していることをPRしながら、本県の魅力をさまざまな角度から伝えようと取り組んでいます。静岡県は、友好提携先の浙江省とは介護分野、環境分野の連携も進めており、我々は、こうした現地の生活を豊かにする県内の商品・サービスを掘り起こすことで、経済分野でも本県との接点を増やし、人的往来を増やしていきたいと考えています。
地域の魅力を点→線→面へ
日本のPRを通じて地元に貢献
静岡県は「地域外交」という言葉を大切にしています。中国に限らず国同士の関係は、時にセンシティブな話題がクローズアップされることがあります。静岡県はこうした時にも「国は国」、「地域は地域」で交流を進めるという「地域外交」の理念のもと、海外各地と積極的に交流を続けてきました。特に、静岡茶の故郷とされる浙江省とは、1982年に友好提携を結んで昨年には40周年を迎えました。今年9月の杭州アジア競技大会では15名の県訪問団を派遣し、現地で浙江省の皆様から温かい歓迎を受けました。地域間交流は、結局は「人と人のつながり」で成り立っています。数年で異動のある自治体職員であっても、静岡県と浙江省は40年間の交流を通じて、各職員がさまざまな部署で接点を持つことによって、幹部職員になる頃には厚い友情が育まれています。
静岡県のPRは私の大切な任務ですが、たとえば日本から中国への旅行で「兵馬俑を見に西安に行く」と言っても「陝西省に行く」と言う方は少ないように、インバウンドにおいて「県の境界線」は、それほど大きな意味がないとも感じています。点在する都道府県の魅力を線で繋げば、よりダイナミックに日本の魅力をPRできますし、静岡県は主体的にこの役割を果たしていきたいと考えています。今後は、中部北陸9県による協働プロジェクト「昇竜道」や、東京~大阪間のゴールデンルート上の自治体の皆様と連携し、いかに広域で訴求力のある提案ができるかが目標です。上海で出会う皆様とのご縁を大切に、30年目を迎える静岡県上海事務所のバトンを預かり、故郷に貢献していきたいと考えています。
お茶の緑色の法被をイベントで見かけたら、お気軽にお声がけください。また弊所は、静岡県人会の事務局も担っています。静岡県出身の方、静岡県の企業にお勤めの方など、本県にゆかりのある方のご連絡をお待ちしています。
事務所は3名の小所帯のため、楽しく能力を発揮できる職場づくりが所長の最重要任務。勤続9年目となる湯さん、厳さんは「静岡愛」に溢れる自慢のスタッフです
PROFILE
プロフィールYusuke Ishikawa
1978年生まれ、静岡県静岡市出身。横浜国立大学経済学部を卒業後に旅行代理店で法人営業を担当。2005年に静岡県庁入庁、商工振興課、財政課などを経て2019年から地域外交課で静岡県の友好提携先・浙江省との交流を担当。2023年6月に静岡県国際経済振興会上海代表処所長(首席代表)に就任。
上海赴任前の昨年12月に静岡でイタリアングレーハウンドの男の子を迎え入れました。来年4月には家族と一緒に上海に渡航する予定で、朝の散歩が私の役割になりそうです。お勧めの動物病院がございましたら教えてください!
富士山静岡空港線のPRで、上海市地下鉄の人民広場、静安寺など5カ所に広告を掲載しました。「富士山!」と笑顔で指を指すカップルの姿を見たとき、インバウンド回復への手ごたえを感じました。上海で富士山が見られると駐在員の皆様からも好評でした。
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