キーマンインタビュー
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雅馬哈発動机研発(上海)有限公司
総経理 室尾 振郎 氏
遊び心と楽しさを商品に込め
二輪車が傍にある社会を築く
変化の速い中国市場に対応し、適切な商品を届けるべく、中国に展開する生産拠点との緊密な連携をとって、主に100cc~250ccクラスを中心としたモーターサイクルなどの二輪車の企画、開発及び関連する中国製部品の開発を行う「雅馬哈発動机研発(上海)有限公司」の総経理である室尾氏に話を伺った。
世界に愛される YAMAHA製品
1950年代は日本が復興への道を歩み始め、200社以上が二輪車市場へと参入していた激戦の時代。そんななか、前身である日本楽器は、将来の事業発展の足がかりとして、この強豪ひしめく業界へと踏み込むことを決め、モーターサイクルづくりに着手しました。木造平屋2棟の工場で、150名あまりの従業員が試作車を組み立てて、テストし、分解し、また組み立てる日々を繰り返し、数カ月もの試行錯誤の末、ついに完成へとこぎ着けたのです。第1号機は斬新なカラーリングやデザイン、軽量で容易な取り回し性、さらに当時としては極めて重要な始動性の良さが大変好評を博しました。取扱い販売店も徐々に増加し、やがて生産が軌道に乗ったことで、1955年7月にオートバイ製造部門を日本楽器から分離独立させ、ヤマハ発動機株式会社を設立しました。現在では日本のみならず、世界中の方に愛されるオートバイを世に出し続けられています。
30以上の国と地域に160以上のグループ会社を持つヤマハ発動機は、2004年に中国にR&D拠点をヤマハ発動機100%出資で設立しました。メインである小排気量から中排気量までの商品開発及び企画業務を上海と重慶で行っています。それまでは日本で中国向けの企画開発を行っていましたが、中国の生活水準が向上、多様化することで急速に変化を遂げる市場のニーズに迅速に対応すること、また中国の生産拠点と連携し、より良い商品開発を行うことを目的に上海へ進出。その後2014年には生産拠点との連携をさらに高めるべく、重慶にも拠点を設けることになりました。
経済的豊かさで高品質を求める傾向に
日本では数年前からキャンプ業界が盛り上がりを見せていますが、アウトドアは世界的にもブームとなっています。中国も例外ではなく、経済的に豊かになったことで生活の質が向上し、農村部での運搬を含む実用用途や移動用途よりも、ツーリングなどの遊び用途での需要が増えてきたように感じられます。上海では毎日、移動やデリバリー配達などに使われる電動自転車をおびただしい数目にします。北京をはじめ、他の大都市では郊外に豊かな自然や山々が広がるロケーションが多く、それらの地域では125cc(原付二種)のスクーターから1,000ccを超えるビックバイクまで、さまざまな排気量の二輪車でツーリングを楽しんでいます。ソロでのツーリングはもちろん、数十人のクラブメンバーで心地よいスピードで風を切りながら非日常を楽しむことできるのが魅力です。そういった意味では、小排気量(125cc)のモデルを開発するうえでも、遊び心や操る楽しさを重要視しています。また、これまではどちらかというと価格を重視した二輪開発を行ってきましたが、カスタマーからは125ccのスクーターのライトをバルブから質の良いLEDへ、ブレーキをドラム式から機能性の高いディスク式にカスタマイズしたいといった声を多くいただくようなりました。付加価値商品を求める場面が多くなったことは経済の発展と共に中国の二輪市場が成熟方向に向かっているのだと実感します。
ただ、最盛期には1,800万台を出荷していた中国国内台数も、今では600万台にまで先細りしていることに加え、上海は他の都市部に比べてナンバーの取得は容易ではありません。中国国内メーカーとの競争も避けては通れないので、求められているニーズに適した商品の開発を行うよう取り組んでいます。
開発者のものづくり魂
輸送用機器の開発は数年に亘る業務で、日程に基づいた開発進捗を行っています。そうした過密スケジュールをこなすなかで起こったのが、ちょうど1年前に2カ月以上もの間、上海の街が身動きを封じられたロックダウンです。弊社ではロックダウン中、まずは食糧不足を懸念し、独自のルートで社員の自宅に食料品を数回届け、食事面で手当てをしました。また、自宅からリモートでCAD(コンピュータ支援設計)が操作できるようPC環境を整えたことで、開発者は自宅で開発業務を続けることができるようにしました。さらに、社内で応援ビデオを作りWeChatで共有するなどしてメンタル面のケアにも配慮しました。前代未聞の出来事であったにもかかわらず、業務に大きな影響を与えることなく乗り越えることができたのは、ナショナルスタッフの目標達成意欲と、ものづくりへの想いがあったからだと感じており、感謝の気持ちでいっぱいです。
「やるからには、最高のものを」
右も左も分からないオートバイづくりを行うことを決断した初代社長は「やるからには、最高のものを」という言葉で、技術担当スタッフたちを鼓舞していたそうです。この言葉は、弊社のものづくりの原点であり、我々がこれからも受け継ぐべき意志です。この意志を胸に、今後は自転車タイプの電動車から高性能化しつつある中国EV二輪市場への発展を視野に入れつつ、R&D拠点として市場の変化に対し柔軟に対応できる体制を構築していく所存です。
本年1月に発売した150ccのオートバイです。お仕着せを嫌う90後世代が街から一歩踏み出す気にさせる”冒険の相棒”として開発しました
PROFILE
プロフィールSakio Muroo
1966年生まれ、大分県大分市出身。九州工業大学工学部卒業。1990年にヤマハ発動機株式会社に入社し、モーターサイクル本部に配属。入社以来、一貫して開発部門に従事し、110cc(原付二種)から大型モーターサイクル(1,700㏄)までの開発に携わる。2015年にヤマハモーターアジアンセンター設計部長を務め、2021年1月より、ヤマハ発動機R&D上海の総経理に就任、現在に至る。
弊社が所在する園区で実施される植樹イベントには欠かさず参加しています。郊外なのでショッピングモールなどはありませんが、緑が増えていくのは喜ばしいことです。
昨年11月に実施した「Family day」の様子です。社員とその家族を対象に、免許が必要のない場所で二輪の乗り方教室を実施し、昼食を共にする会です。
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