キーマンインタビュー
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在上海日本国総領事館
在上海日本国総領事 片山 和之氏
現地交流を強化しながら
日本の魅力を直接伝え、
頼りになる総領事館を目指す今年8月、新しい在上海日本国総領事が着任した。北京での留学、大使館勤務を経て、今回が5度目の中国生活。自ら“総決算”と話す上海での業務について話を伺った
入省直後から続く、中国との関わり
私が外務省に入ったのは、今から32年前の1983年。研修言語として中国語を選択し、中国専門家としてのキャリアをスタートさせました。今でこそメジャーな外国語となり、中国語を学ぶ方も増えましたが、当時はまだ、英語やフランス語などと異なり“特殊言語”とされていた時代。それでも敢えて希望した理由には、近代史における日中関係の歩みに、兼ねてより興味を抱いていたこと、また、巨大な隣国として、今後、重要な外交相手となることは必至であると考えていたからです。入省翌年の84年より北京へ留学。そして87年に、北京の日本大使館にて、外交官としての勤務を始めました。
留学から着任に至る数年はまさに、中国における外国人の生活が激変したタイミング。改革・開放路線が進んだことで、街には外資系ホテルが増え、日系のゴルフ場が現れ、これまで娯楽の少なかった駐在員の生活が一変。さらに留学当初はまだ、中国人と外国人の接触の機会が限られており、現地に居ても両者の間にハードルを感じていたのですが、その後数年内には、同じ土俵で対話する機会も増え、よりフランクな関係性が築かれ始めました。こういった重要なターニングポイントを現場で直視できたことも、非常に貴重な経験であったと思っています。89年より日本勤務となりましたが、92年には、天皇皇后両陛下に随行して、上海・浦東エリアにある農家を訪問したことも印象深い事柄です。日本を経て、再度、北京大使館勤務となったのが97年から99年。その後、マレーシア、中国(北京)、ベルギー、アメリカでの駐在を経験し、満を持して今年8月、5年振りにして5度目の中国生活が始まりました。上海での勤務と生活は初めてではありますが、自身のこれまでの中国との関わりや知見を活かせる“総決算の場”として捉えています。
在留邦人・日系企業のサポート強化
総領事として上海で勤務するにあたり、まず念頭に置いているのが、在留邦人と日系企業のサポート強化。現在、上海には約4万7千人、管轄する周辺4省を加えると、実に6万人を超える在留邦人が居住しており、ピーク時に比べ多少の減少はあるにせよ、世界的に見てもずば抜けた数字です。当地で生活するうえで直面する生活・安全の諸問題に当たり、総領事館としても可能な限りの支援をすることで、より皆様にとっての“頼れる存在”を目指します。
さらに、2万社以上にのぼる、管内の日系企業の支援も重要なミッションです。私は直前に、米国にてデトロイト総領事を務めていましたが、当時の管轄であったオハイオ州やミシガン州は、日本の自動車産業の進出が盛んで、最大投資エリアのひとつでした。しかし、それでも、日系企業数は2州合計でも900社ほど。上海のそれとはケタが違います。しかし一方で、投資環境が比較的整っているアメリカやヨーロッパ諸国と比べ、中国はまだ、投資に関する整備が不充分である点も見受けられます。こういった問題を一企業のものとして放置せず、総領事館としても大きな懸念事項とみなし、投資の円滑化をサポートすることで、官民が一体となり“オールジャパン体制”で、日本の力を上海でも最大限活かせるよう努める所存です。そのために、企業や関連機関を積極的に訪問して、情報交流を活発化したり、商工クラブの理事会などに直接足を運び連携を取り合うなど、日頃から、デスクワークに決して留まらない“現場主義”を心がけ、動いていきます。
交流を通して日本のファンを育成
また、総領事として、中国人に向けたアプローチも最重要課題であると捉えています。できるだけ多くの中国人、特に次世代を担う若者と直接交流を重ねることで、現代の日本や日本人を、より等身大に伝えることができるはずです。イメージが先行し、実際の姿が正しく理解されていない状況は、日中間で度々見られる問題です。肝要なのは、交流を通して、実体験として日本と日本人を知ってもらうこと。たとえば、大学で講演を行なったり、日本語学科の集まりに出席するなど、一方通行ではないインタラクティブな交流を図り、私自身も相手を知る良き機会としたいと考えます。
当面の目標は、当地の“日本ファン”を更に増やすことです。昨年、総領事館として1年間に発給した訪日査証(ビザ)件数は、過去最高の約87万件。全世界のなんと30%を上海で発給している計算となり、ピーク時には、1日1万件以上発給することもあります。日本の魅力を実感してもらうには、やはり、実際に現地に行ってもらうことが一番。訪日を通して抱いた良いイメージこそが、日本に対する正しい理解のサポートに繋がると信じています。総領事館として、一人でも多くの中国人の訪日を促すことができるよう、査証業務を滞りなく行ないながら、さらに、インバウンド事業の促進にも積極的に対応していくつもりです。
前勤務地であるアメリカから、日本を経て上海へ。その際「国によってマスコミの論調に温度差がある」と実感した。「日本国内は特に、中国に対して悲観的な論調が多い。対中観も、対日観も、直接見ないまま判断しがち」。中国を正しく日本に伝えることも、自身の役割だと話す
PROFILE
在上海日本国総領事
片山 和之氏
1960年広島県生まれ。京都大学法学部卒業後、1983年外務省入省。1987年に二等書記官として在中国日本国大使館に勤務。その後、外務省アジア局中国課首席事務官、内閣官房副長官秘書官などを経て、1997年に一等書記官として再び在中国日本国大使館へ。さらにアメリカ、マレーシア、中国(北京)、ベルギーを経て、2013年より在デトロイト日本国総領事。2015年8月22日より在上海日本国総領事として上海へ。
片山さんを知る3つのキーワード
出会いや縁を大切にしたい
70億もの人間がいる中で、ある特定の場所と時間を誰かと共有するのは奇跡的なこと。「出会いや、出会いから触発される人間関係を大切にしたい」と、この言葉を胸に留めている。「上海で総領事に着任したのも一期一会、まさに縁だと感じています」
多感な時期に出会った3冊
三浦綾子「塩狩峠」は「様々なイデオロギー対立の中で虚無感を抱いていた学生時代に、他人や社会のために命を捧げる様に触れ、人生観に大きな影響を与えた」。他に、フランクル「夜と霧」、プルースト「失われた時を求めて」も、人間の根源を考える著作だ
休日には上海の街をぶらり
街散策が好きという片山さん。先日は虹橋エリアの旧日本人街を巡ったとか。「上海には歴史的な建築物が多く残されているので、休日を利用して見て回りたい」。ちなみに上海の道路事情については「北京時代に訓練されているので問題ない」とか
在上海日本国总领事馆
万山路8号5257-4766
www.shanghai.cn.emb-japan.go.jp
詳細は
在上海日本国総領事館
住所 | 長寧区万山路8号 |
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