キーマンインタビュー
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全日本空輸株式会社
上海支店長 津田 正弘 氏 2024年9月号
ヒト・モノ・想いを乗せて
ワクワクで満たされる世界へ
世界最高評価「5スター」を11年連続で受賞し、空港サービス全般を評価する「World’s Best Airport Services」をはじめ2部門でも最も優秀な航空会社と評価されるなど、安心安全な空の旅を提供する「全日本空輸株式会社(ANA)」。パンデミックを乗り越えた今、中国・上海での総指揮を任された上海支店長である津田氏にお話を伺った。
5スター&2部門受賞の「ANA」
「中国には『水を飲むときには、井戸を掘った人のことを忘れない』という言葉があります。その井戸を掘ったのは岡崎さん、あなたです」。
これは、1972年の国交正常化の記念式典の際、当時の総理である周恩来氏が全日本空輸株式会社(以下、ANA)2代目社長の岡崎嘉平太氏へ贈った、今なお語り継がれている言葉です。岡崎氏は学生時代から中国人留学生と交友を深めたことで中国に関心を寄せ、日中の国交断絶時代には貿易の発展を通じて国交の早期回復を願い、民間サイドから日中友好のために尽力した人物です。中国と深く強い関係を築いた岡崎氏のDNAが受け継がれている我々は、1987年4月16日に成田=大連=北京線の定期便の運航を開始して以来、航空運送事業を通じて、日中友好の空の架け橋となるべく、その役割を担うことを大切にしてきました。
現在、世界を繋ぐエアラインであるANAは、イギリスの航空産業格付け会社のSKYTRAX社より、世界最高評価の「5スター」を11年連続で受賞しております。また、今年6月に発表された同社の最新のWorld Airline Awardsにて、世界中の空港サービス全般を評価する「World’s Best Airport Services」、アジアを拠点とする航空会社の中から空港スタッフや客室乗務員によるサービス品質を評価する「Best Airline Staff in Asia」の2部門で最も優秀な航空会社として表彰していただきました。連続受賞や複数部門の受賞は、非常に光栄なことであり、同時に身が引き締まる思いでもあります。これからも世界のリーディングエアライングループを目指し、またご利用いただく皆様に快適な空の旅を提供できるよう、さらに邁進していく所存です。
抜本的な改革で成長軌道へ舵を切る
記憶に新しいあのパンデミックは、世界中に大きな影響を与えました。当時私は羽田空港で勤務をしておりましたが、本来空を飛んでいるはずの青と白の機体が空港内の駐機場にずらりと並んでいる光景は、今でも目に焼きついています。航空需要の大幅な減少に合わせて、生産体制を小さく構える必要があり、機材数の圧縮や空港や市内オフィスなどの施設の縮小、人件費の圧縮など、固定費の削減に全力を注ぎました。
コロナ危機からの生き残りを懸けて航空事業を一旦縮小したこともあり、現時点で中国路線は上海(虹橋/浦東)、北京、大連、青島、杭州、広州、深圳、厦門(貨物便)の8都市9空港、週84便(旅客便)の運航に留まるなど、旅客便はコロナ前と比べ半分程度の回復となっており非常に厳しい状況が続いています(貨物便は週44便を運航し、コロナ前と同水準の規模で運航)。特に私が新規開設に携わった成都や武漢、また増便を図った関西=杭州や青島などは、引き続き運休が継続しており、思い入れのある私としては残念でなりません。
一方で、良い兆しも見えてきました。2023年より、中国では3年間にわたった厳格な新型コロナ規制が解除され、日本では感染症法上の位置づけが5類感染症に移行し、また世界保健機関は緊急事態宣言を終了するなど、世界の新型コロナへの対応に変化がみられました。これにより、2024年3月期決算では、訪日需要が好調に推移したことに加えて、日本発の国際線需要も積極的に取り込んだ結果、国際線旅客収入が、初めて国内線旅客収入を上回るなど、成長軌道への回帰局面に入ったと感じております。また、中国における直近の数字では、前年同月比で提供座席数151%、旅客数で175%と大きく回復している状況です。ただし新型コロナの爪痕は深く、特に中国路線の回復は十分にできていないため、中国での事業を回復させ、再び成長ステージに乗せられるよう、最大の努力をしていかねばと考えています。
ANAを支える新たな事業の柱
先述のとおり、ANAは航空事業を大黒柱として成長してまいりました。しかし新型コロナはその柱をなぎ倒す勢いで猛威を振るい、結果として会社の脆弱性が浮き彫りになったことは言うまでもありません。我々はこの反省を活かしてコロナ禍から成長軌道への回帰を目指し、①マルチブランドの最適化と貨物事業の拡大による「エアライン事業の利益最大化」 ②事業分類に応じたリソース配分による「航空非連動の収益ドメインの拡大」 ③グループの持続的成長に向けた「ANA経済圏の拡大」という3本柱の事業戦略を策定しました。2024年2月には新ブランド「Air Japan」を立ち上げ、マルチブランドの最適化を柱とするエアライン事業を強化しました。また「航空一本足打法」からの脱却に向け新ECモール「ANA Mall」や「ANA Pay」などのプラットフォームを構築し、新たな収益源を生み出す新しい柱を育てていけるよう努めています。中国では、今年1月に中国旅行予約サイト最大手「携程集団/Trip.com Group」と訪日旅行拡大向けた戦略的提携を日本の航空会社として初めて締結しました。商品開発やプロモーションを共同で実施することで日本各地の魅力・情報発信を強化し、中国からの訪日旅行拡大と地域創生に貢献していきたいと考えています。
中国における新ビジョンの策定
2024年度よりANAの中国域内でのビジョンを「ヒト・モノの日中交流を通じた多様なつながりにより、夢と希望にあふれる将来を創造し、愛されるエアラインになる」に変更しました。お客様と貨物の移動を通じた多様な交流こそが、日中の建設的且つ安定した関係につながり、両国の未来に向けた協力可能な分野が広がっていくという想いが込められています。「ANA Team China」に所属する社員一人ひとりがこのビジョンを意識し、持てる力を存分に発揮することにより、さまざまなステークホルダーの夢と希望にあふれる将来の創造にお役に立ちたいと考えています。人と人の関係性を大切に、このビジョンに相応しい会社へとさらに成長してまいります。
今回、海外での駐在生活は初めてとなりますが、ここ上海には多くの日系企業様が進出しており、さまざまな業界でお仕事をされている方とお会いし、お話を伺えるのがとても楽しいです。ぜひ皆様と交流を深めていけたらと思います
2024年は上海市と大阪市の友好都市提携50周年です。このタイミングで、大学卒業まで過ごした大阪の姉妹都市である上海に来たのは何かの縁。来年は「大阪・関西万博」も開催されるので、空から大阪・関西を盛り上げていきたいです(上海=関空運航中)。
PROFILE
プロフィールMasahiro Tsuda
1973年生まれ、兵庫県尼崎市出身。1997年に関西大学法学部を卒業後、日本電信電話株式会社に入社。2005年に全日本空輸株式会社に入社し、東京空港支店旅客サービス部に配属後、ネットワーク戦略部で国際線の事業計画策定に従事。その後、オペレーション部門で人事、総務、労務などの業務を経て、2024年4月より現職。
西湖ふれあいウォークにプライベートで参加したときの写真です。地元の方と一緒に西湖を歩きました。日中友好イベントも企画、参加していきたいです。
上海赴任直前に訪ねた伊能忠敬旧宅での一枚。今の私の年齢と同じ50歳で新たな挑戦に踏み出したチャレンジ精神に感動しました。