キーマンインタビュー

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角川青羽(上海)文化創意有限公司
董事長・総経理 吉田 さをり 氏
その価値を最大化させる
グローバル・メディアミックス
書籍出版をはじめ、映画、アニメ、ゲームなど幅広い事業を展開する総合エンターテインメント企業・株式会社KADOKAWAの100%子会社「角川青羽(上海)文化創意有限公司」。KADOKAWAが持つ豊富なノウハウを活用し、中国産IPの創出に尽力している同社の董事長・総経理吉田氏に話を伺った。
メディアミックスでIP価値最大化
角川書店を前身にもつ株式会社KADOKAWAは、1945年に創業しました。KADOKAWAと言えば書籍を刊行する出版社、または角川映画のイメージが強いと思いますが、弊社は時代やカルチャーの変化に合わせて業態を変革し続けており、現在では書籍出版から創出されるIP(知的財産/コンテンツ)を中核に、アニメ、映画、ゲーム、WEBサービス、教育、MD、コトビジネス、インバウンドなど、幅広い事業領域を展開しています。このため、一つのIPを様々なメディアへと展開する手法「メディアミックス」を主に自社内で行える体制となっており、IPの価値を最大化させています。
海外拠点ネットワークの構築は1999年からスタートし、現在は中国、タイ、米国など、アジアや北米を中心に24拠点、従業員数は連結子会社で約600名となりました。東アジア圏を中心に拠点を増やしていき、中国大陸への進出は当時エンターテインメントが最も盛んであった広州から始まりました。2008年に広州の中国企業との事業提携を開始し、2010年に中国国営出版社との合弁で「広州天聞角川」を設立、その後2018年に100%子会社の「角川青羽(上海)」を設立しました。KADOKAWAは「グローバル・メディアミックス」の推進を基本戦略に置いており、海外拠点ネットワークを生かし様々な作品や商品を展開しています。アジアンドリームを体感
2000年初頭の東アジア圏では、日本の漫画を原作としたドラマ化が、日本よりも早く流行していました。2001年には「流星花園(花より男子)」が放映、同作で登場する学園の御曹司4人組「F4」はアイドルユニットとしてデビュー、ドラマと共に世界中の中国語圏を中心に大ヒット、爆発的な社会現象となりました。それまではグローバルでヒットするコンテンツといえば、英語コンテンツであるハリウッド作品が一般的な時代でした。英語以外の言語「中国語」で世界的にヒットし、さらに日本の漫画が原作であることを知り、日本のコンテンツ制作者としてアジアのエンターテインメントに大きな未来を感じました。まさに“アジアンドリーム”を感じた瞬間でした。
この絶大な人気を誇っていた「F4」の主演ドラマ2作品目が、私の担当作品となる「貧窮貴公子(山田太郎ものがたり)」でした。この作品を手がけたことがターニングポイントとなり、コンテンツの編集者が海外事業担当も兼務するという、珍しいキャリアへとシフトしていくきっかけとなりました。
中国産IPの創出に尽力
一般的に、コンテンツ企業の海外進出は日本IPの輸出を基本としたライセンスビジネスを主軸にすることが多いです。しかしKADOKAWAは一貫して、2008年の中国大陸事業開始時からライセンスビジネスだけではなく中国現地でのオリジナルIPの開発こそ重要であると考えてきました。創立10周年を超えた広州天聞角川の成功により、中国での出版事業は完成形を迎えました。そこでさらに、グローバル・メディアミックスや中国産オリジナルIPの創出を専門で行う会社が必要と考え、角川青羽を設立しました。立ち上げは広州天聞角川に次ぐ2社目でしたが、今回は法人設立の企画立案からすべて自ら行ったため、苦労も多かったですが大変良い経験となりました。設立当初は中国人スタッフと二名で小さなオフィスからスタートしました。社名の「青羽」はKADOKAWAのマークである鳳凰の青い羽から名付けました。
角川青羽は、KADOKAWAが持つ豊富なIP開発のノウハウ、クリエイターとのネットワークを活かし、中国のエンタメ関連企業と共に中国及びグローバル市場でヒットする中国国産のIP(ゲーム、アニメ、ドラマなど)の開発や、中国人作家と共に漫画や小説などの中国オリジナル作品の開発を行っています。
開発実例としては、中国大手デジタルメディア製作会社原力、中国大手配信プラットフォーム企業テンセントとの3社共同製作で、中国オリジナルVTuberチーム「千鳥」を発表しています。開発ディレクションや、キャラクターデザイン、設定などは弊社がすべて担当しました。また、中国総合配信コミュニティbilibiliとのコミカライズ共同プロジェクトでは、日本のライトノベルを原作とし中国人漫画家がコミカライズした7作品を連載中です。この中には中国産としてアニメ製作を行っている作品もあります。今年以降には、中国大手ゲーム会社と共同開発しているオリジナルゲームの発表や、中国映像制作会社とのドラマ制作の発表、中国人漫画家を起用したオリジナル作品の日中同時連載など、皆さんにご覧いただけると思います。
世界中の才能たちと共に
2008年に中国大陸事業を開始した時から、中国産のグローバルヒットIPを作ることが私たちのミッションであり目標です。また、IP開発の事業を通じて、日中両国の企業、クリエイターの皆さんに文化交流と技術交流の舞台を提供したい、一方通行ではないコンテンツ交流で日中を繋ぐ架け橋になりたいと考えています。
私たちの作る物語が、世界中の方々に楽しさや驚きを届けられるよう、これからも世界中のクリエイターと共に作品を作り続けていきたいと思います。
中国に進出している日系企業の皆さんから、キャラクター開発やプロモーション用のコンテンツ開発などを希望されることも増えてきました。異業種の皆さんともアライアンスが組めると面白いですね!
「三体」の著者で中国の著名SF作家である劉慈欣さんの最新作「火守(焼火工)」を、弊社が窓口となり日本版を発売。中国の優秀作品を日本に展開する事業も行っています
PROFILE
プロフィール
Saori Yoshida
東京都出身。1998年角川書店(現KADOKAWA)入社。漫画編集者として数々の作品に携わる。2008年より中国事業を担当し、2010年~広州天聞角川動漫有限公司第一編集部総監、雑誌「天漫」特別主席顧問。2015年~角川国際動漫教育(台湾)特別顧問を経て、2018年より現職。

総経理塾
中華エンタメ好きの会
メディア企業、通訳者、ドラマ翻訳家、広告代理店などの方々が集まっていますが、敷居は高くありません。映画、ドラマ、歌手、アイドルなどの中華エンタメ好きな方、ぜひお気軽にご参加ください。写真は皆で行った武侠レストランです。