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北京市安理律師事務所
民事事件における「案由」選択のジレンマからの脱出口 — 予備的請求
本文では、当事者が民事事件における「案由」選択時のジレンマに直面した場合の「予備的請求」による訴訟結果リスクの解決について検討する。
司法実践では、事件の事実が同一又は類似する場合であっても、「案由」(「事件名」、「事件の趣旨」などを意味する)の選択によって全く異なる裁判結果が生じうる。
農村宅地上の建物使用権譲渡契約紛争事件を例とする。建物使用権譲渡契約は売買契約、賃貸借契約のいずれとも解釈することができるため、異なる案由を選択することになる。また、宅地上の建物については、法により農村集団経済組織以外に譲渡することができないが、政策によって認められた地区では貸与が可能である。よって、案由の選択は、契約効力の認定及び訴訟上の請求が支持されるか否かに直接影響を及ぼす。訴訟上の請求が支持されなければ、別に訴えを提起しなければならない。
「予備的請求」のメカニズムでは、訴訟上の請求が支持されない場合、当事者は同一事件の中で代替の案由で別の訴訟上の請求を主張することができるため、同一事件の中で訴訟目的を実現することができ、敗訴後に別途訴えを提起する必要がなくなる。
概念
予備的請求(中国語「備位訴請」)とは、原告が1件の訴訟で同じ被告に対し同じ法律関係について、優先順位と関連関係のある主位と次位の訴訟上の請求を提示し、主位的請求が認められなければ譲歩して主張する次位的請求のことであって、裁判所は次位的請求を審理して判断を下す。
適用事由
予備的請求は、すべての案件で主張可能なのではく、少なくとも次の条件を満たさなければならない。
(1)主位的請求と予備的請求は、通常、案由が異なり、優先順位があり、相互排他的であるため、同時には成立しない。違約責任と権利侵害責任が競合する状況で、2つの責任が同時に成立するならば、救済にあたってどちらかを選択すればよく、予備的請求を行う必要はない。
(2)主位的請求と予備的請求は、いずれも明確且つ具体的でなければならない。主位的請求と予備的請求は、相対的に独立しているから、予備的請求を行うとしても、それぞれ具体的な訴訟上の請求によって構成され、それぞれに対応する事実と理由を有するべきである。
(3)主位的請求と予備的請求は、同一の法律事実と法律関係を対象としなければならない。予備的請求は、実践において同一の法律事実と法律関係について理解が異なるという問題を解決するために行うものであって、法律事実又は法律関係自体に違いがあるわけではない。
(4)主位的請求と予備的請求は、同一且つ明確な被告に対するものでなければならない。異なる当事者間の法律関係については、それぞれに訴えを提起して主張しなければならない。
司法実践
予備的請求については、中国の法律に明確な規定がなく、司法実践での適用も普遍的ではない。しかしながら、最高人民法院は、これを支持する態度をとっている。例えば(2019)最高法民申1016号事件において、裁判所は、原告が第2項の訴訟上の請求を提出したのは、第1項の訴訟上の請求が裁判所の支持を得られない場合の予備的請求であって、中国民事訴訟法の関連規定に違反しない旨を判示している。この他、北京や上海など一部地方の裁判所が予備的請求の提起を支持している。
価値と意義
予備的請求は、訴訟経済原則に適合しており、当事者が同一事実のために反復して訴訟提起することを防ぎ、同一事件において当事者の利益最大化を実現し、争いを一度に徹底解決することを可能にする。さらに重要なのは、それが人民法院の「息訟止争」(訳注:訴訟取り下げ等による紛争の未然解決)原則に適い、裁判所による事件審判の協調・統一にも役立つということである。
定着化と展望
新たな事物にはやはり多くの難題が伴う。例えば、主位的請求と予備的請求における案由の違いによって管轄が衝突する、予備的請求の適用条件と手続が不明確である等である。実践で不断に応用と探求が行われるつれ、明確かつ具体的な法律法規が発布され、さらに予備的請求の定着化が進み、案由選択という難題を真に解決することができるようになるものと思料する。
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