キーマンインタビュー

Keyaki Group

創立者　Richmond Leeさん

心地良い時間が流れる集いの場所を創りたい

ウイスキーバー「Nocturne」をきっかけに、日本スタイルの飲食店を展開するケヤキグループの創立者・Richmondさん。彼の経営方針とは―

憧れの「ジャパニーズバー」を香港に

　仕事で東京に2年間住んでいましたが、東京にある個性のさまざまな個人経営のバーがとにかく好きでした。小さなお店ながらも、それぞれの性格が鮮明でオーセンティック。また、ウイスキーがバカラのグラスで出てきたり、サインする際のボールペンがモンブランのものだったりと、細部にとことんこだわる姿勢や品のある雰囲気が憧れでした。そして、通う度に「なぜ香港にはこのようなお店がないのか」と考えさせられました。これが、ジャパニーズスタイルのウイスキーバー「Nocturne」を作る原点だったと思います。
　また、個人的にはワインも非常に好きで、西麻布にあるワインバーにもよく通っていました。そのお店は創業40年になる老舗ですが、ワインの価格設定は入荷時の底値を基準にしていました。なかには時間を経て相当値上がりしたものありましたが、そこは「来店客に負担させるべきではない」というオーナーの意思があったようです。身をもって「良心的」という言葉を学びました。そのため、Nocturneでもお酒の価格は「底値+$500」と決めています。
　バーだけではなく、日本の「居酒屋」という空間も気に入っています。東京でファンドアナリストの仕事をしていたときはよく家の近くの居酒屋でゆっくり飲みながらレポートを読んでいました。気兼ねなく自分のペースで過ごせる時間は非常に重宝していましたし、日本ではどんな閑静な住宅街にもそういうほっこりできるお店があることに感心しました。ですから、2014年に串焼き屋「しば」の第一号店をオープンしたときも、場所はケネディタウンという古い住宅街を選定しました。

居心地良い集いの場を提供

　現在、香港ではそれぞれテーマが異なる8軒の飲食店を経営していますが、すべてのお店に共通するものは「居心地良い雰囲気」であることだと考えます。料理をメインに提供しているお店のスタッフにも常に「ここは料理を提供するバー」ということを強調しています。ファストフード店のように、お客様が腹を満たすためだけに来店しているのではなく、お店で過ごす時間自体を楽しんでほしい。ですから、我々もターンオーバーを強調することなく、逆に上質なおもてなしを重視しています。お客様がゆっくり会話を楽しめる、居心地良い集いの空間を目指しています。
　根強い人気のある飲食店は、独自のテーマを持っていることが多いです。しかし、個性を強調したいがために、薄っぺらい見た目だけのテーマで飾ってもお客様は通ってくれません。何度も通いたくなるお店には、深みのある特徴がなければなりません。例えば、Nocturneでは200種類以上のウイスキーを揃えており、日本のウイスキーだけでも60種類は超えます。唎酒処「五勺」にも、グラスで楽しめる日本酒が200種類以上あります。多くのお客様は、来店する度に2～3種類のお酒を試し、また次回来てくれます。リピートしてくださるお客様を作るには、お店のテーマにも真剣に取り組まなければなりません。
　香港で飲食店を経営するのは楽ではありません。実際今も赤字のお店があります。しかし、問題を見つけ、分析し、そして解決法を探し出すことは好きですので、それもひとつのチャンレンジとして積極的に立ち向かっています。次のプロジェクトは京都になるのですが、今度は飲食店ではなく旅館を作ってみたいと思います。ジャンルにこだわらず居心地の良い空間をこれからも提供していきたいと思います。

PROFILE

リッチモンド　リー

アメリカの大学で金融を専攻し、交換留学プログラムで1年間（1994～95年）早稲田大学に通う。卒業後は、NYと東京で金融関連の仕事に携わり、2004年香港に帰国。2013年に1店舗目であるウイスキーバー「Nocturne」をオープン。その後、4年間で飲食店を香港に8店、京都に1店を展開する。