キーマンインタビュー

季節の素材にこだわり進化する和食をお届け

7年間連続ミシュラン1つ星を獲得したWagyu Kaiseki Denの総料理長・五月女さんに、和食の真義と創作に対する想いを伺った。

熱烈な招待で香港へ

　修業時代はずっと日本でしたが、その後海外で料理することがむしろ多かったです。アムステルダム、ロンドン、ミラノ、パリと色々回った末、紹介のみのお店「松涛」を任せられました。今のオーナーに出会ったのは、彼が友人の紹介で来店した時です。料理をとても気に入ってくださったようで、毎月来店してくれました。そして、「香港でおまかせをやってみないか」とのお誘いも。ロンドンから帰国したばかりで、少し日本にいたいという気持ちもありましたのでお断りしたのですが、それ以来、毎日電話またはメールで説得され、挙句には香港行きのビジネスクラスの航空券が送られてきて「とにかく一回香港に来てみてください」と。その熱意と押しの強さに負け、頷いてしまいました。オーナーはこちらの細かい要求もすべて呑んでくれ、「やりたいことは全力でバックアップする」と大変協力的でした。

お客様へのおもてなしの心
　　　　　　　　　　　　　　　
　当時「おまかせ」は香港でとても珍しく、グランドメニューのないお店はほとんどありませんでした。そんな中、おまかせ一本で、しかもディナーのみの経営方針を貫きましたが、今までにないほどの良い反響を得ることができました。おまかせはその名の通り、料理人が当日の食材を見ながらメニューを決めるのですが、一切融通がきかないというわけではありません。お客様のご要望にも柔軟に対応します。例えば、食べられない食材をほかのものと変えたり、リクエストされ日本からスッポンを取り寄せたこともありました。予約の時点で要望をしっかり把握し、できることは尽力します。お客様の中には、オープン以来毎週土曜日に来店する夫婦がいらっしゃり、その頃は月替わりメニューでやっていたのですが、その方には毎週メニューを変えていました。月4回メニューを考えるのはとても大変ですが、毎週来てくれるのはとても嬉しいことですし、常連様には目新しいメニューや好きなメニューを提供するのもおもてなしの一環だと考えます。

柔軟な考え方で探索する新しい和食
　
　和食は旬の食材を使うことにこだわります。無駄な味付けはせず、食材本来の味を活かします。オープン当初の月替わりメニューははやめ、今は食材の時期に合わせてメニューを作っています。例えば、ハモには走り・旬・名残の時期があり、それぞれ違う食べ方で美味しくいただけます。それを「1カ月経ったから」という理由で替えるのはもったいない。食材が美味しい時期は目一杯楽しむ、無理してメニューを替えることはありません。
  海外での経験が長いせいか、食材や調理方法に関しては結構オープンな気持ちで構えています。海外にいた頃も和食を作っていたのですが、本当にいろいろな食材に触れてきました。伝統的な和食では考えられないような組合せも、いざ実践してみるとうまくいくことがあります。柔軟な思考で良いもをとりいれ、和食を進化させていくべきだと考えます。アワビにフランス料理のように肝ソースを添えてみたり、美味しかったパパイヤの中華スープからインスピレーションを得て、青パパイヤでスッポンのあんかけを作ってみたりと、アイデアはいろんな料理から見出すことができます。多い時は年に8回日本に戻り、懐石料理を食べ歩いては新メニューを考えています。常に進化している和食をお客様に届けていきたいと思います。

PROFILE

さおとめ ひろゆき

白トリュフの旬には特別コースも提供

芸術的な盛り付けもおもてなしの一環