キーマンインタビュー

奥深い酒の世界を香港に日本酒の伝道師

仕事をきっかけに日本酒の世界に飛び込んだランディーさん。唎酒師として活躍する彼に、日本酒に対する熱い思いを伺った。

日本酒の世界に魅せられる

　輸入代理店に務めていた頃はワインが担当でしたが、その勤務先が事業方向を日本酒に変更したのです。視察のために日本の酒造会社を訪れ、その複雑かつ繊細な製造過程にすっかり魅了されました。原材料、温度などひとつの要素を変えただけで全く新しい味になる日本酒の世界をもっと知りたいと思い、独学で日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会（SSI）の唎酒師資格に挑みました。日本酒の歴史や造酒の専門用語、さらに全くの文系だったので醸造過程の化学反応などを覚えるのは相当大変でした。猛勉強の甲斐もあって2014年に唎酒師の資格を獲得しました。

　フリーの駆け出し唎酒師の時は、香港で日本酒をもっと普及させたい一心で、日本酒に関する仕事にはなんでも挑み、無料で引き受けた仕事もたくさんありました。気にいってくれた方の紹介のおかげもあって、現在は日本酒の試飲会のコーディネートやワークショップなどをメインに活動しています。

香港で日本酒の魅力を説く伝道師

　唎酒師は、飲み手の好みや要望を察知し、日本酒の楽しみ方を伝えるプロです。日本酒の知識は無論、その魅力や楽しみ方を上手に説明し、より多くの人々にファンになってもらうというのも非常に重要な役目です。香港は米国に続く世界第二位の日本酒輸入先です。香港の方々の日本酒に対する知識はまだまだ高いとは言えませんが、多くの方はお酒やテイスティングに深い興味があります。近年は日本酒の注目度も高まり、ワークショップに参加する人も増えたのですが、ワイン鑑賞の経験を持つ方の多くはワインの鑑賞方法を日本酒に応用したがります。もちろんそこは、唎酒師として日本酒の独特性や楽しみ方をじっくり分かってもらえるまで説明します。
　日本酒を紹介するために香港でのプロモーションに何度も携わりましたが、一番効果的なのはテイスティング会です。それも、たくさんのお酒を一度に試飲できる大型のイベントが好評です。そこで、2016年は「日本酒の日」である10月1日に香港で初めて「清酒祭2016」を開催しました。ニューワールドミレニアム香港ホテルの会場で酒蔵元も参加する試飲会を行い、各ブースの日本酒を紹介するガイドツアーを実施したほか、鏡割り儀式など日本文化に関しても紹介しました。参加者からの反響も大きく、毎年恒例のイベントとして定着させることができればと思います。

酒を通して香港と日本の架け橋に

　2015年にロンドンで開催された「酒ソムリエ・オブ・ザ・イヤー」に参加し、第3位を獲得しました。同コンテストには世界中の唎酒師が参加しており、改めて日本酒が世界でも注目されているということを体感しました。欧米の唎酒師は既成概念におとらわれず、日本酒を西洋料理や中華料理ともペアリングさせていました。香港では「日本酒には日本料理」というイメージが強いのですが、今後はこのような日本酒の可能性ももっと香港で紹介できればと思います。香港にいる唎酒師として、香港人に日本酒の知識と魅力をアピールするのも大切ですが、日本の酒蔵元に香港市場の大切さと香港でうまくプロモーションをする方法を知ってもらうのも重要だと考えます。日本酒を通して、香港と日本が今後さらなる友好関係を築いていけることを願い、唎酒師としての役目を全うしていきたいです。

PROFILE

ランディー　アウ

元輸入代理店のワイン担当。勤務先が日本酒輸入をはじめ、奥深い日本酒の世界に魅了される。独学で唎酒師の資格と所得し、現在はフリーの唎酒師としてイベントやワークショップなどで活躍。日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会（SSI）香港支部の委員も担う。

今年2月にSSIより「名誉唎酒師」に任命

初心者向けにデザインした日本酒トランプ