キーマンインタビュー

理想主義で終わらせない資産運用で世界に貢献

「資産運用で世界平和に貢献」という信念を胸に、アジア各国を飛び回るアナリスト・鈴木さんの理想と日々の任務について伺った。

投資で幸せのおすそ分け

　証券アナリストとして仕事を始めてもう20年を超えます。現在りそな銀行では、年金を資産運用で増やすことが主な業務です。具体的には、リサーチと企業訪問を通じて、投資先として魅力的な企業を開拓しています。安定した成長と利益が期待できるというのはもちろん前提ですが、ここ香港駐在員事務所では特に「世界平和に貢献する会社」をターゲットに投資しています。

　投資は様々な切り口から行うことができますが、長年この業界で仕事を続ける中で個人的にポリシーにしているのは「人の不幸で儲けない」ということです。自然災害、経済危機、戦争などに投機して莫大な利益を得ることはできますが、投資利益の源泉は経済・社会の継続的な成長と発展です。きれいごとに聞こえますが、人々を幸せにする企業に投資しながらお金を儲ける、「幸せのおすそ分け」は可能だと信じています。
　世の中の争いのもとは、不平等な富の再分配にあると考えます。ですから、安定した発展で関わる人をハッピーにするような企業はとても大切な役割を担っていると思っています。例えば、今検討している企業の中には、不妊治療のリサーチに注力しているマレーシアの医薬会社があります。不妊治療のニーズが増加しているなか、子どものいる幸せな家庭を持つチャンスを人々に与え、世の中のハッピーを増やすことに貢献しているように思えます。

アジアを飛び回る日々

　証券アナリストの仕事は実際とても地味です。7割の時間は地道にリサーチを行い、アニュアルレポートや関連の報告書をひたすら読みます。そこからポテンシャルのある企業を選定し、現地まで訪れます。現在1カ月の約半分は、ASEAN、中国、韓国、インドなどアジア各地の企業を訪ねています。投資すべき企業を見定めるとき、まずは「5回『Why？』を聞く」ことを自分のルールにしています。より深く掘り下げて話を聞くことで、企業の本質に近づいて行きます。また、経営者の方に話を聞くときは「一番大切にしていること」を必ず聞くようにしています。「人」、「社会への貢献」など優等生な答えは求めていません。企業柄に惹かれるものがあれば積極的に検討します。
　今まで数多くの企業を訪問してきましたが、中でも印象に残ったのはフィリピンのファーストフードチェーン「Jolibee」です。フィリピン国内で何百店舗も展開し、フィリピンの方々にとってはソウルフードといっても過言ではありません。海外では、香港をはじめ、アメリカ、中東など、フィリピン人がいるところには出店しています。正直、海外での売り上げは微々たるものですが、1千万はいるという海外で働くフィリピン人に心の寄りどころをと、1店舗でも出店するようにしていると経営者の方が話してくれました。自分も海外赴任の経験があり、故郷の味がどれほど心の糧になるか実感したことがありますので、なおさら心を打たれました。

世界平和ファンドを設立したい

　年金は足の長い投資商品です。長く携わるからこそ、何らかしらの信念がなければ続けられません。幸い、香港駐在員事務所では、「世界平和」という目標があります。将来的には、日本国外でも年金商品を売りたいと考えます。「世界平和ファンド」と名付け、資産運用と同時に社会にも貢献できる仕組みを作りたいです。我々現世代のため、というよりは子どもたちや後世のために有意義なものを残したいと思います。

PROFILE

すずき　さとあき

横浜出身の東京育ち。91年慶應義塾大学経済学部卒業後、旧協和銀行に入社。新宿支店での窓口営業を経て、本社の総合資金部へ異動。96年、99年～2002年ロンドン赴任。その後、アセットマネジメント部で株の運用を担当。アメリカ、日本での勤務を経て、2011年より香港駐在。

6年間一緒に働いた仲間

リサーチから始まる1日