キーマンインタビュー

日本酒の魅力を香港に伝える粋な「酒サムライ」

自身の事業としてのみならず「日本清酒文化交流会」を通してその魅力を伝える酒サムライ・ルイスさんに、その熱意の源を伺った。

奥深い日本酒に感銘

　18歳で日本に渡ったルイスさんだが、本格的に日本酒に触れ始めたのは居酒屋「酒処ほかほか」を開店してからだという、「店にある酒のバリエーションを増やしたいと思い、仕事で付き合いのある日本酒サプライヤーさんから教えてもらいながら自分でも勉強しました」。そして、香港にある日本酒の種類に物足りなさを感じ、2003年に「美貿有限公司」を立ち上げ、自ら日本酒や焼酎の輸入を始めた。上質な日本酒を探し求めて数々の蔵元を回り、そこで出会った人々との交流からさらに日本酒の奥深さを体感した。「回ったのは小規模な蔵元ばかりでしたが、どこも酒づくりに対する深いこだわりを持っていました」。そんな酒の味だけでなく、人柄にも魅了された蔵元とは現在でも10年を超える付き合いを続けている。

基準を下げずマイペースで事業展開

　「香港の日本酒市場はここ10年で大きく変わっています。『日本酒もワインのように奥が深い』と認識する消費者が増え、さらに多くの日本酒の知識を求めています」。だがその一方で市場の規模が追いついておらず、常に商品が入れ替わるという輸入業者にとっては極めて激しい競争が続いている。「商品を売るためにどんどん価格を下げる業者もいますが、私はそういう無理な競争には参加しないと決めています。実際に蔵元の方々とお会いし、彼らが1本の日本酒を作るために莫大な時間と努力を費やしていることが分かります。やっぱり、その酒の良さを納得してもらったうえで購入してほしいと思います」とルイスさん。代理している日本酒も無理に品目を増やすことなく、1年に1つの蔵元とゆっくり、丁寧に展開している。

感動をもたらす酒には真心がある

　常に上質な日本酒を厳選してきたルイスさん、酒を選ぶ時にまず見るのはなんと「ラベル」だという。「外見重視だと思うかもしれませんが、それは中身だけでなく、ラベルや瓶まで一貫してこだわり通す心構えだと考えています。そんなお酒がまずいということはありません。すべての人が『美味しい！』と思うことはないかもしれませんが、真心を込めて作られた日本酒には心を打つものがあります」と話してくれた。

日本酒を楽しむための知識を広める

　日本酒が好きな香港の人々にもっと日本酒の知識と魅力を伝えたいという想いが深まり、2007年にルイスさんは「日本清酒文化交流会」を創立した。日本酒に関するセミナーをはじめ、試飲会や日本の酒蔵元巡りなど多岐にわたる活動を開催し、現在1000名を超える会員を有している。その日本酒に対する熱意と日本酒文化を広める努力が認められ、2010年にルイスさんは日本酒造青年協議会（IWC）の「酒サムライ」に選ばれた。そして、2016年湾仔にて「酒部屋　斗」をオープン、交流会の活動拠点にしながら、厳選された日本酒と料理のペアリングが堪能できるダイニングバーとしても営業。現在、日本清酒文化交流会のメインとなっているのは「日本酒楽士」の課程。日本酒を楽しむための知識を教えており、それも、酒の種類や性質に対する知識だけでなく、日本酒の味わい方や料理との楽しみ方など、日本酒を楽しむための知識を身につけることができる。いわば、真の日本酒愛好者向けのコースだ。「今後は、日本清酒文化交流会のこの『日本酒楽士』の資格をさらに普及したいと考えています」とルイスさん。「酒サムライ」のこれからの活躍にも期待できそうだ。

PROFILE　

Louis　Ho　（ルイス　ホー）

香港出身。18歳で日本に留学。帰国後、日系企業で8年勤務し、2002年に尖沙咀にて「酒処ほかほか」をオープン。翌年日本酒・焼酎の輸入会社「美貿有限公司」を起ち上げる。日本清酒文化交流会の創立者、2010年度日本酒造青年協議会の「酒サムライ」。

新しく湾仔にオープンした「酒部屋　斗」

バイヤーや業者を集めた試飲会も開催