キーマンインタビュー

PMQ 元創方

エリア：上環・中環・金鐘

エグゼクティブ・ダイレクター　ウィリアム・トー氏

香港、そして世界のデザイン業界で活躍する未来の才能を育てる

2014年のオープン以来、香港デザイン業界の中心として存在感を放つPMQ。エグゼクティブ・ダイレクターのウィリアム・トー氏に、その使命と挑戦について伺った。

おしゃれで香港らしいデザイナーズショップが集まり、注目を集めるカルチャーイベントが次々に開催される文化複合施設。世間には香港の若手クリエイターたちの情報発信地として知られる「PMQ」の、「人を育てる」仕組みと、進化し続ける試みを紹介する。

PMQは人材育成プロジェクト

　PMQとは何なのか？と問われたら、その核となるコンセプトは「香港の若手デザイナーの育成」です。香港の新たな世代の才能を活性化し、彼らが地元の香港マーケット、そして世界のクリエイティブ業界で活躍できる基盤を整えるための場所と機会を提供する。そのための仕組みがPMQプロジェクトです。香港政府により提供された歴史的建造物を活用した場所で、基金からの寄付を受け、香港デザインセンターほか複数の団体で構成されるＮＰＯ組織が運営を担っています。
　PMQの上層階は、デザイナー育成のための恒常スペース。若いデザイナーたちの活動の場となっています。そして地階から二階に文化や創造性を発信する商業テナントを誘致し、中央広場では定期的にイベントを開催しています。一般の人々を惹きつけて来場者を増やし、認知度を高めることで入居デザイナーたちのアドバンテージを生み出す。この官民連携の仕組みは、新たなビジネスモデルとして国際的にも注目を集め、これまでに海外から多くの視察が訪れています。また、来場者数はオープン当初の目算を大きく越えて、この四年間で述べ14万人を数えています。

大きく羽ばたく足掛りとなる場に

PMQプロジェクトの対象となるのは、意欲と才能がありながらこれまで飛躍のチャンスがなかった香港の若手クリエイターです。少なくとも二年の活動実績と安定的なビジネスプランを確立している、いわば「準備ができている」人材。サポートは活動場所の提供にとどまりません。例えば初年度には、事業経営のノウハウを学ぶワークショップを定期的に開催しました。インフラ構築のためのIT技術、商品保護に関わる知的財産権の知識、事業・商品を紹介するためのライティングスキルなど、各分野のエキスパートを講師に呼び、多角的な学びを提供しました。二年目以降は、彼らをNYやパリ、上海、日本など海外の展示会に連れていき、国際的なビジネス展開に必要な経験を積ませています。
　海外市場を視野に入れた取り組みにも注力しています。施設内には日本の「GOOD DESIGN STORE」はじめ各国のデザインギャラリーが入居するほか、デザイナーたちの海外進出の足掛りとして、日本の渋谷パルコや韓国の東大門デザインプラザとのエクスチェンジプログラムを開催しました。また今年、PMQのセレクトショップを香港国際空港と旺角にオープン。デザイナーたちにとって、観光客と九龍のローカル層というタイプの異なる二種のオーディエンスにアプローチし、より広い視野を養う新たな挑戦となります。
　このような環境下で、大きな成長を遂げるクリエイターたちも出てきています。PMQで自身初のブランドを立ち上げたファッションデザイナーは、現在Ocean TerminalやK-11など四店舗を展開。入居当初三人だった建築事務所は、40名超に成長してスペースが足りなくなり、PMQを卒業していきました。デベロッパーやビジネスオーナーがここで活動する若手のスカウトに来ることも多く、PMQがある種、香港の若い才能のショーケースのような役割を果たすようになっています。

子どもたちの心に「創造の種」を

　PMQは、それ自体が進化を続けているプロジェクトです。日々変化する環境下で、私たちも常に学び、新しい挑戦を続けています。今年から取り組んでいるのは、子どもたちへの早期クリエイティブ教育。創造的な思考力は、幼い時期の経験により培われると考えます。どの子もがデザイナーになる必要はありませんが、なるべく早い時期に頭の中に「創造の種」を蒔いてあげたい。これは現在の香港の学校教育に欠けている部分で、その役割をPMQが果たせればと考えています。今年の夏に小中学生を対象に行われた「Wow Summer Camp」では、四日間でさまざまなプログラムを開催しました。例えば若い建築家がメンターとなり、問題に直面した際にクリエイティブな思考を働かせるワークショップ。おもちゃが壊れてしまったらどうする？問題の原因を特定し、解決方法を探す。それを「遊び」をベースにした活動で体験し、創造的な思考を学んでいきます。また、アート・エデュケーターによる自己表現のワークショップや、PMQの「食の図書館」のキュレーターによる食べ物を媒体にした創作活動など。8月中旬の段階で、500人以上の小・中学生たちが参加しています。
　秋以降も、ファッションとビジュアルアートがコラボする「Smart fashion」や、"Trial and Error"をテーマにした10日間のアートフェスティバル「deTour」など、イベントが目白押しです。意欲と情熱のある若い才能を伸ばし、香港デザイン業界の発展に貢献するのがPMQの使命。才能を育てる新たな可能性に挑戦しながら、私たちも進化を続けます。

「Smart Fashion」では、ファッションデザイナーと視覚デザイナーがペアになり、舞台デザインと衣装を制作。舞台芸術など他分野とのコラボを通じ、デザイナーとしての制作フィールドの可能性を拡げるのが狙い。

PROFILE

うぃりあむ・とー

1992年に広告エージェントを設立。ブランドコンサルタントとして、多くの企業のブランド構築、商品開発に携わる。2005年、香港デザインセンター（HKDC）のシニアコンサルタントに就任。2015年、Creative and Programme DirectorとしてPMQ Management Co. Ltdに参画、2018年5月にExecutive Directorに就任。

<ウィリアムさんを知るキーワード>

心に刻んでいる言葉

マハトマ・ガンジーの「Be the change you wish to see in this world（この世に起こってほしい変化を、自分が起こしなさい）」。つまり自分がゲーム・チェンジャーになるんだ、ということをいつも心に留めています。

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